nakazoranotsuma
中空の妻
本田鈴雨
公園に見下ろす四季は水彩画いろ穏やかに欅しづもれる
つつましき住処の窓にあふぎ見し葉の光(かげ)揺るるゆりのき恋ほし
わかくさの妻を育てしキッチンの一口こんろ青きほのほに
カメラなきエレベーターに後朝のくちづけのための三秒ありき
つなぐものを指(おゆび)にかへて山茶花の垣根のそとへ夫送りけり
木がほしいああ樹が欲しいかたはらに、鉢の小庭の此処なかぞらに
整然と銀の硝子のたひらかに輝く電磁調理器を拭く
炎とふものの不在に性愛のとほのきがちなる日々をおもひつ
逢瀬ごときみに所有のしるし濃く刻まれし身の記憶愛(かな)しむ
啄みのキスひとつしてつなぐ手のやすらぎに夜夜ねむる君はも
中空(web)の昼をしるし無き女ただよふ 鉄塔のへに薄氷の月
おおなんと魅惑のひびき暮れがたにニュースの言へる「内縁の妻」
うつくしく脱ぐ。そのために着るものを細身の黒きタートルネックは
ひさかたの月にあかるむわが頸にただ汝のものと刻印をせよ
ふかくふかくいだきあふきみ金雀枝か さやぐ、ほろほろひかるはなふる