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       中空の妻

                               本田鈴雨

                    

公園に見下ろす四季は水彩画いろ穏やかに欅しづもれる


つつましき住処の窓にあふぎ見し葉の光
(かげ)揺るるゆりのき恋ほし


わかくさの妻を育てしキッチンの一口こんろ青きほのほに


カメラなきエレベーターに後朝のくちづけのための三秒ありき


つなぐものを指
(おゆび)にかへて山茶花の垣根のそとへ夫送りけり   


木がほしいああ樹が欲しいかたはらに、鉢の小庭の此処なかぞらに


整然と銀の硝子のたひらかに輝く電磁調理器を拭く


炎とふものの不在に性愛のとほのきがちなる日々をおもひつ


逢瀬ごときみに所有のしるし濃く刻まれし身の記憶愛
(かな)しむ


啄みのキスひとつしてつなぐ手のやすらぎに夜夜ねむる君はも


中空
(web)の昼をしるし無き女ただよふ 鉄塔のへに薄氷の月


おおなんと魅惑のひびき暮れがたにニュースの言へる「内縁の妻」


うつくしく脱ぐ。そのために着るものを細身の黒きタートルネックは


ひさかたの月にあかるむわが頸にただ汝のものと刻印をせよ


ふかくふかくいだきあふきみ金雀枝か さやぐ、ほろほろひかるはなふる




2008年2月 作







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