shiroganenokyuu








           

       しろがねの球(きう) 

                               本田鈴雨

                    

たえまなく降りくるものに吸はれゆく 自己と非自己をみわけられない


みづからの免疫系に関節の壊さるる仕組み似合ふ自我なり



ゆりのきの篩
(とほし)となりてとほす雪とほさざる雪それぞれに消ゆ


無意識と意識の岐路をおもふとき大腿四頭筋に力込む


チタン合金の関節三つ下肢にあり〈吾〉なるひとかたまりを運べる   


走ること最後となりき二十九の夕、秋冷をきりきり裂きき


ひざがしらをゆるき弧に抱く創のあと合はすれば左すこし冷たく


灰まとひ横たはるわがガイコツを見にゆきたいねムラサキシジミ


真球に焦がるる人工股関節骨頭研究者のまゆ濃かれ


いにしへの同病のひと一生をや如何に生きけむ輪廻乞ひけむ


わたくしの左股関節のしろがねの球は引き寄す十三夜月


妻背負ひ階のぼりおりる君どんなかほしてゐるのでせうか


精神を自壊より衛らむとして体は病をみごもりしかも


陽だまりを膝から落とし立つ脛
(はぎ)にしまし震へるベンチさ青し


みづからの細胞のみに成るひととつながりあゆむ土匂はせて




2009年2月 作







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