shiroganenokyuu
しろがねの球(きう)
本田鈴雨
たえまなく降りくるものに吸はれゆく 自己と非自己をみわけられない
みづからの免疫系に関節の壊さるる仕組み似合ふ自我なり
ゆりのきの篩(とほし)となりてとほす雪とほさざる雪それぞれに消ゆ
無意識と意識の岐路をおもふとき大腿四頭筋に力込む
チタン合金の関節三つ下肢にあり〈吾〉なるひとかたまりを運べる
走ること最後となりき二十九の夕、秋冷をきりきり裂きき
ひざがしらをゆるき弧に抱く創のあと合はすれば左すこし冷たく
灰まとひ横たはるわがガイコツを見にゆきたいねムラサキシジミ
真球に焦がるる人工股関節骨頭研究者のまゆ濃かれ
いにしへの同病のひと一生をや如何に生きけむ輪廻乞ひけむ
わたくしの左股関節のしろがねの球は引き寄す十三夜月
妻背負ひ階のぼりおりる君どんなかほしてゐるのでせうか
精神を自壊より衛らむとして体は病をみごもりしかも
陽だまりを膝から落とし立つ脛(はぎ)にしまし震へるベンチさ青し
みづからの細胞のみに成るひととつながりあゆむ土匂はせて