2010年
1月号
白い色は恋人の色きけばまた悲しくてやりきれない十月
サディスティックミカバンドと「オラは死んぢまつただ」が結びつきし十五歳
「〈和幸〉はとんかつ屋さんぢやありません」坂崎幸之助と笑つてる (和幸/かずこう)
鬱による自死であるなら病死かもしれぬ清志郎もゆるさむ
こゑ和せばなほ澄んでゆくほほゑみの輪郭濃かれ加藤和彦の
ヨッパライは帰つてこない雲のうへ笑顔でかなしんでゐるだらう
2月号
屈折と純粋ゆゑの混沌の澄めば終はりぬ 少年の日は
熱湯の満ちたる薬缶かろがろと取り上ぐる汝が腕の血管
いつのまに弱きを守る若者となりぬ小さき者でありし汝よ
男性のこゑもて礼を言ふ甥と話す受話器を耳は眩しむ
二十歳となりしおまへと話したる携帯メールが最後となりぬ
甥のうた幾つかありきそをこよひ挽歌となして欠詠をせず
3月号
こひびとの棺追ふ子を留めゐる父母と汝があねとちちはは
骨だけになつたおまへを見るなんて りつぱなほねだりつぱなほねだ
もうゐないおまへの町を走り去るおまへのIMPULSE
友を乗せて
日を三度泣けば暮らせるやうになりデスクトップにおまへを据ゑる
メンチカツ揚げればおもふこの先も甥と過ごしし去年の冬の夜
汝が頬を挟みしやうにことのはを掬へばことごとくこぼれ落つ
(完)